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映画『MINAMATA−ミナマタ−』の見どころと史実との関係



 ジョニー・デップが企画・主演するハリウッド映画「MINAMATA」が2021年9月23日から国内各地の映画館で上映されている。「ハリウッドが水俣病映画?」と最初は半信半疑だったが、試写を観て、真面目に作られた映画であることを実感した。その要点を紹介し、長年、水俣病患者支援に携わってきた筆者の視点から史実との関係について考察してみたい。


■主人公は写真家ユージン・スミス

 2時間弱のドラマは、ユージン・スミスと米国の写真雑誌LIFE編集者との相克から始まる。ジョニー・デップが写真家ユージン・スミスを演じているのだが、そのルックスは1972年の自主交渉闘争中にチッソ東京本社で見かけたユージンに、かなり似ていた。

 ロケ地は欧州の田舎で、流れの緩い川か、湖の周辺らしい。この風景を水俣と似ていると観るかどうか。水俣の風景を知る人は、「似ている」「違う」・・・そんな観点からの鑑賞も面白いかもしれない。


■事前の現地取材訪問

 この映画のことは数年前から耳にしていた。ユージン・スミスと共に1971~74年水俣に住み写真を撮った、今は京都在住のアイリーン・美緒子・スミスさんが映画企画の初期から関わり、水俣で旧知の移住支援者とともにアンドリュー・レヴィタス監督らを現地案内した。

 ある患者家族がアジアでの少し違った風采の配役に異議を述べ、その役が真田広之に替わったとの噂も耳にした。首都圏の知人からは、ほかの俳優が水俣に学びに行くという話も聞いた。坂本龍一の音楽も含め、作品制作が誠実・真摯になされたことは確かだ。


■ハラハラ探索

 けれど、史実との関係で少し気になるところもある。それは、この映画がユージンを主役にしつつも、テーマとして彼がカメラを向けた1970年代初頭の水俣病患者家族の闘いやチッソの動向も描いているからだ。ドラマとしては惹きつけられるが、事実そのままではない部分もある。それを3点、簡単に説明しておこう。

 カメラマン夫妻と仲間が企業側の病院で何かを探すシーンはスリルとサスペンス。しかし、ユージンとアイリーンが水俣市月浦に移住した1971年には,すでにチッソ付属病院はない。しかしその病院に、命がけでも探索すべき重要データ(水俣病の因果関係を裏付けるネコ実験記録)があったことは事実。その記録は、宇井純さん(公害・環境学者)、桑原史成さん(写真家)はじめ幾人もの尽力で世に出て、企業責任を確定する水俣病第一次訴訟判決につながった。


■会社VSカメラマン

 國村隼がチッソ社長役で存在感を示しているが、史実で言えば、江頭豊と島田賢一、二代の社長が一人の登場人物に重ねられている。映画では社長が工場内でカメラマンに怪しいものを渡そうとするが、チッソが札束を渡したり写真家がそれを受け取ったりした事実はない。

 ただし、1972年1月の五井事件(千葉県のチッソ五井工場に申し入れに行った自主交渉派患者と写真家ユージンらを御用組合員が暴力をふるって排除した事件)でユージンに致命的な損傷を負わせたチッソが、暴力加害を世に問わない条件で、壊した機材を賠償し医療費を払うと言ったことがある。しかし、ユージンはそれを拒否した。そして他方、ジャーナリストの立場として暴力被害の告訴もしなかった。


■炎は挙がったか

 ハリウッドの名作「風と共に去りぬ」でも、家が焼け落ちるシーンが印象的だったが、ユージン夫妻が住んでいた溝口家や現像工房で火事は起こっていない。

 ただし、その2軒隣の川本家では、川本輝夫さんが自主交渉闘争でチッソ東京本社に出ずっぱりの時期で、ミヤ子さんと小中学生で留守宅を守っていた。風呂に火を点けられて空焚き寸前になったり、嫌がらせに消火器の置かれた事件があったことを長男・愛一郎さんが語っている。同時代、自主交渉派の患者家族が、何者かからの放火の心配に対峙し続けていたのは確かだ。


■日本らしさをチェックした真田広之

 主役のジョニー・デップも熱演だが、日本の俳優の熱演も見逃せない。患者家族を率いて闘う真田広之の姿は川本輝夫さんを彷彿とさせる。そのセリフや役割には、他の患者支援者の分も含まれているが、彼は欧州ロケ地でまさに日本人キャストやエキストラのリーダーとして、水俣の現地らしさを出す演出にも尽力したという。。

 英語の会話部分に字幕はあるから鑑賞に支障はないが、彼やアイリーン役の美波が時に英語を駆使していることにも感心した。


■どう水俣を伝えるか

 私たちが水俣病について伝えたいこととして、被害・苦難はもちろんだが、同時に患者家族の慈しみ・希望と果敢がある。

 史実との違いを念のために記したが、この映画は、ユージンや患者家族の果敢という「肝」を、うまく描いている。他国の上映でも映画で水俣を初めて知ったとの感想が多々あったというが、日本でも、水俣病が忘れ去られている面もあるから、新鮮な感動を受ける観衆も少なくないだろう。


■ドキュメンタリー映画もぜひ

 デップの映画で水俣に関心を持たれた方には、水俣病の実録映画も観てほしい。20世紀の水俣病闘争については、土本典昭監督などの名作を「シグロ」が販売・貸出している。

そして、今世紀の水俣病を、関西訴訟最高裁判決から約十年にわたって記録した原一男監督の長編ドキュメント『水俣曼荼羅』も、ハリウッド映画と同じく2021年秋に公開された。

 こちらは6時間を超える超大作だが、今も続く水俣の闘いを主要判決などの闘争場面から、患者家族のエピソードまでが描かれていて、長時間でも見飽きない。

 コロナ禍で映画も受難の時代だが、ハリウッド映画や原監督映画を、映画館に足を運んで鑑賞していただければありがたい。


久保田 好生(ロシナンテ社「むすぶ」2021年7月号記事を一部補正)




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